シリーズ企画「招へい研究者に聞く!!」

シリーズ企画 「招へい研究者に聞く!!」京都工芸繊維大学 上田大助先生

京都次世代エネルギーシステム創造戦略では、最先端の研究者を国の内外問わず招へいし、研究開発を進めています。
シリーズ「招へい研究者に聞く!!」では、担当コーディネータ(CD)が研究室を訪問し、招へい研究者の先生方に研究内容、近況などをお伺いします。



第4回京都工芸繊維大学ナノ材料・デバイス研究プロジェクトセンター
特任教授 上田大助先生
今回ご紹介するのは、「半導体パワー素子を直接制御する高度DC/AC給電システム」のご担当で”高速・低損失のGaN(窒化ガリウム)デバイスやGaNデバイスを用いた電力変換システム”の研究にチャレンジされている京都工芸繊維大学ナノ材料・デバイス研究プロジェクトセンター 特任教授 上田大助先生です。(担当コーディネータの久保田がインタビューしました。)

地域イノベーション戦略支援プログラムでご講演中の上田先生
地域イノベーション戦略支援プログラムでご講演中の上田先生

CD:まず、経歴をご紹介ください。
上田先生:九州工業大学院工学研究科修士課程を修了し、松下電器産業㈱(現パナソニック㈱)に入社しました。シリコンパワーデバイス開発では、世界で初めてトレンチ構造のMOSFETやトレンチ型IGBTなどを提案しました。またGaAs(ガリウムヒ素)高周波パワートランジスタでは、携帯電話用のInGaAs/AlGaAs系トランジスタ(HFET)およびGaAs/InGaPヘテロバイポーラトランジスタ(HBT)の集積化と高周波化のプロセス技術の研究と量産化を行いました。その後、GaN(窒化ガリウム)パワーデバイスの研究を行ってきました。パナソニックでは、先端技術研究所所長、デバイスソリューションセンター所長、主席技監など、やってきました。特に社外の研究機関などとのオープンイノベーションの仕組み作りなどを推進していました。

CD:パナソニック時代に先生のグループで開発されました携帯電話向の受信フロントエンドやパワーモジュールは、当時世界シェアがトップとなり、海外へも供給され、大河内記念技術賞、生産賞も受賞されていますが、その際のご苦労話などをお聞かせください。
上田先生:1988年にスタンフォード大学留学から帰国して、デジタル携帯電話端末用GaAs パワーモジュールの開発リーダを担当することになりました。送信時の高周波増幅を担うパワーモジュールは、当時の携帯端末で最も電力を消費する部品であり、消費電力のうち、送信時には過半の電力を費やしていました。このため実用的な動作時間仕様を満たすのは少し困難な状況でした。GaAs パワーモジュールは、電力変換効率が高く、消費電力を抑制できるという利点がありましたが、半導体材料費が高いのが欠点でした。効率を高めるために新たにヘテロ接合を使った試作品を作り、グループ内の松下通信工業に売りに行きましたが、価格で折り合わず、採用してもらえませんでした。そこで外販のために、NECやSONYに売り込みに行きましたら、価格は高いが効率で差別化できる、とのことで採用して頂けました。その後、製造部門の努力により、価格も安くなり松下通信工業でも使ってもらえるようになりました。

CD:やはり価格はいつも難しい課題ですね。先生はGaNパワーデバイスの研究に早い時期から取り組まれ、GIT(Gate Injection Transistor)の発明で、これまでGaNデバイスの課題であったノーマリーオフ化を達成されました。現在、GaNデバイス開発ではトップグループに居られますが、そこに至るご苦労についてお話いただけますか?
上田先生:GaNデバイス研究を始めたころは、社内の化合物事業が赤字事業に陥る直前であり、新たなデバイス開発に必要な設備投資を実行することは大変難しい状況でした。その状況になった原因はまた別のお話しです。そこで前々からお話のあった総務省や経産省の国家プロジェクトに応募することにしました。お陰様で結晶成長装置など、必要な設備導入が可能になり、多くの世界初となる結果を出すことができました。現在パナソニックはGaNで世界をリードしていますが、これは国プロのお陰と言って過言ではありません。今日、ナノテクノロジーの分野では大学で様々な設備を目にしますが、運用がバラバラなので、必ずしも十分に活用できているとは言えないように見えます。海外の大学ではファシリティマネジメントが一本化されていることが多く、共用の研究場所として利用する形が定着しています。彼らに聞いてみますと、ファシリティ・マネジャーに権限を集中させて運営することで、意思決定が速く、効率よくかつ安全に研究設備を使えるように腐心しています。国内の大学でも同様の運営方式を導入すれば、インフラ運営は他に任せて、効率的かつ低コストで研究開発が行える体制を作ることができるのではないかと思います。

CD:現在、工芸繊維大学で上田先生が進めておられる研究の狙いや進捗状況についてお教えください。
上田先生:GaNパワーデバイスは、地球温暖化対策としてSiCデバイスとともに重要になると思います。米国はエネルギーの豊富な国ですが、エネルギー効率向上をねらってSave one wattという節電活動を実施しています。また、米国でもwide band gap semiconductorプログラムなどへの研究投資を進めているようです。これに関するオバマ大統領の講演などはYoutubeで見ることができます。エアコンのインバータ化は、日本では当たり前になっていますが、米国では未だ10 %程度、中国では30 %程度だと思います。節電技術は、世界ではこれから必要な取り組みで、これに必要なパワーデバイスには大きな市場があるのです。日本では、米国の動きよりも先に、SiCやGaNデバイス研究が行われてきました。パワーデバイス市場は、置き換え市場が大きいので、新規市場だったスマートフォンやフラッシュメモリーのように爆発的に伸張することはないでしょうが、今後5年間は年率10 %くらいで伸張すると予想されています。現在のパワーデバイス市場については、どこまで含めるかで変わりますが、約2兆円(約160億ドル)程度の市場と推定されています。

CD:
パワーデバイス市場は、着実に伸びてゆく市場なのですね。日本企業がこの市場で成功するためには、どのようなことを心がければ良いでしょうか?
上田先生:
市場で勝つためには、エンドユーザの市場を理解している必要がありますが、日本企業は市場を掴むためのマーケティング機能が弱いと感じています。企業の中でマーケティングといえば、デリバリー、価格・数量などの情報調査と考える向きが多いのですが、米国では新規市場の予測調査の場合を意味しています。化合物半導体の競争で日本が米国に完敗したのは技術ではなくマーケティングだったと思っています。先のことを考えると、GaNの研究の場合でも、日本はトップレベルの研究結果を出していますが、始まったばかりの市場でも1位が取れていません。事業化のシナリオとして旧態依然のものしか持ち合わせないからです。他にもSiCデバイスであれ、GaNデバイスであれ、システムを構成するために必要なドライバなども開発は未着手です。エネルギーの課題はサイエンスではありませんから、事業化を想定しないものは目的のない研究です。このようなドライバは、スイッチングデバイスよりも収益性が高いものになっています。良く使われる絶縁型のドライバーICは古典的な誘電体分離を用いたSi系のものが多いのですが、現在は国内ではほとんど研究されていません。地域イノベーションプログラムの中で新しいドライバの可能性も検討したいと思っています。
私が企業から移ってきたせいかもしれませんが、日本の大学や研究機関では利益を上げることは悪いことというような共産主義的・社会主義的な共通意識があるように感じます。このような意識背景が米国のようなダイナミズムが生まれない原因であり、起業家意識が生まれない土壌となっているのかもしれません。大学はエンドユーザからは遠い。だからこそ、市場に目を向ける必要があり、GaNの研究には企業の研究者にも参画いただいています。

上田先生2
新規に導入されたGaN結晶成長などを行うPLD装置と上田先生

CD:最後に、若い研究者へ一言お願いします。
上田先生:大学の研究者は、自己目的化した研究にならないよう、社会への出口を本気で考えることが大切です。ベンチャーを起業するもよし、物を作れる企業と共同研究するもよし、実現につなげる方法を知ってほしい。そのためには、コミュニケーション力を磨くことが大切です。企業でも分業化が進んでいるので、下位の人は自分でシナリオを考えなくなっています。また、基礎研究と事業化では価値観が異なり、使う言葉は同じでも意味が異なることが往々にしてあるので、相手の価値観を知って対応する能力も必要です。こうした組織間でコミュニケーションが取れると目的意識が共有でき、事業化もうまくゆくと思います。

CD:最近は、日本のエレクトロニクスや半導体産業のシュリンクのニュースを耳にすることが多かったのですが、上田先生のお話をお聞きすることができて、元気をいただくことができました。本日は、お忙しいところ、ありがとうございました。

上田先生の研究内容についてはこちら(PDF858KB)もご覧ください。

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